「俺がアニメになったなら」連載第3回

 高速道路を疾走しっそうする一台の紫のスポーツカー。その後ろを二台の車が追走するが、スポーツカーの驚異のドライビングテクニックによって一台はコースアウトして海の中に落下し、もう一台はスリップしてからフェンスに激突して爆発炎上する。
悠々とその場を走り去ったスポーツカーは、やがて郊外の廃墟ビルの付近に停車し、運転席からスーツ姿の赤い髪の男――九十九零――が下りてくる。
瞬間、九十九の目が鋭く光り、神速で胸元から取り出した銃を二発、バンバン、と連射するや、少し離れた木の上から二人の男が次々にどさりと落下。九十九はふっと銃口に息を吹きかけると、廃墟ビルへと入っていく。
 廃墟ビルの中、行きどまりの壁のとある部分を押したところ、壁は動き出し、地下への秘密階段が出現する。地下には薄暗い光に照らされた豪華なバーが隠されていた。
カウンターにはオールバックの渋いマスターと、セクシーな美女の姿がある。

九十九「(カウンター席につき、USBメモリを差し出しながら)お望みのデータは入手した。報酬はいつもの口座でいい」
マスター「ほう……さすが組織で実力ナンバー1とも囁かれる男。コードネーム『ストロング・ゼロ』」
美女「ゼロって高校生なんでしょう? 学校の友達もまさか、そんな身近に闇組織の腕利きエージェントがいるなんて思いもよらないでしょうね」
九十九「……(無言でニヤリと片頬を上げて笑う)」
九十九(ナレーション)「こいつらは知らない。このオレ、九十九零は学生、闇組織のエージェントの他に、更にもう一つ秘密の顔をもつ、トリプル●ェイスの男だということを――」

 

 はいカットカットカーット!
「パープル、それはギリギリすぎるぞ!」
「うむ、アニメともなると権利問題にはより細心の注意を払うべきだろう」
「てかな~にがトリ●ルフェイスだ、おこがましい!」
「全国の安●の女たちからフルボッコにされろ、この身の程知らず」
「くっ……!」
 一斉掃射で責められて、顔を引きつらせながらこちらに視線を向けてきた九十九君は、私も無言のまま両手で大きくバツを作ると、ガーン! ととどめを食らったかのようによろめき、顔を伏せた。

「えーと、実際どうなるか、楽しみだね! ということで今日はこのあたりでお開き――」
「ストップ! まだ俺の予想を披露してねーぞ⁉」
 強引にまとめて終わらせようとしたところで、厨君に割り込まれる。
「もういいよ……どうせまた自分勝手な妄想を並べ立てるパターンでしょ……」
「ナンセンス! 俺のは一味違うっつーの。イッツショウタイム!」

 

ナレーション≪十月。都内の某ライブハウスは、激しい熱狂の渦に包まれていた≫
観客「騎悧斗きりと~」「騎悧斗最高!」「騎悧斗! 騎悧斗! 騎悧斗!」
厨「今日のパーティーはこれにてフィナーレだ! サンキュー! アリーヴェデルチ!」
観客「わあああああああああ」
ナレーション≪老若男女問わず絶大な人気を誇る、カリスマ歌い手高校生、【♰刹那騎悧斗♰】≫
(個別インタビュー映像)
野田「あいつの歌はすごいぜ! 聞いてると、無限のパワーが湧き上がってくるんだ」
中村「あの男こそ、天才……というに相応しい才能ギフトの持ち主だと認めざるをえまい」

ナレーション≪その果てしない魅力とクリエイティビティは、いったいどこからやってくるのか? その神秘のヴェールに包まれた素顔を暴くため、今回我々は、騎悧斗に一か月間の密着取材を試みた≫

ナレーション≪騎悧斗の朝は、シャワーから始まる≫
厨「♪~♪~♪~(湯気の立ち込める浴室でシャワーを浴びながら美声を響かせる)」
ナレーション≪騎悧斗いわく、『俺は毎日生まれ変わる(アイムリボーン・エブリデイ)』。熱いシャワーを頭から強く浴びることで、昨日までの自分をリセットし、常に新鮮な気持ちで一日を迎えるのだ。(場面が、ゴールデンレトリバーの紐を引いて走る厨の姿に切り替わる。)それから、愛犬オメガ=グーテンタール=如月を連れて、五キロのジョギング。あのパワフルなライブを完遂するには、体力が必要不可欠……騎悧斗は身体強化にも熱心だ≫
(個別インタビュー映像)
高嶋「あいつ、ジムにも通って筋トレしてるんですよ。もともと才能がある上に努力もいとわないんだから、敵わないっつーか……」
厨「――いえ、別に努力してるって意識はないです。モーニング・ジョグはオメガとの触れ合いタイムだし、筋トレもただやるべきことをこなしてるだけで。……特に鍛えてるところ? 声量はまだまだ上げたいんで、腹筋です。……イエス、シックスパック」
九十九「あいつとは従兄弟同士で何かと張り合ってきたけど……正直あのストイックなとこは、尊敬するね」

ナレーション≪ジョギングから帰ってきたら、また軽くシャワーを浴びる≫
厨「♪~……ノー、ノットディス……♬~♪~♪~……! ディスイズイット(これだぜ)!」
ナレーション≪騎悧斗によると、水を浴びることは、感性と創造力を刺激する効用もあるという

 

「「うっぜえええええええええええ!」」
 高嶋君と九十九君が声をそろえて悶絶し、他のメンバーもげんなりした様子でこくこくと頷いた。
一味違う、どころか痛々しさがよりいっそう強烈に押し出されている……。
「ドキュメンタリー風にして人に変な台詞しゃべらせてんじゃねえよ!」
「いっちょまえにプロフェッショナル気取って仕事の流儀を語るな!」
「グリーンはそんなにシャワーが好きだったのか?」
「サービスだよ、サービス。更にブルーレイ版ではなんと! 湯気がとれる……⁉」
 そんな十八禁仕様いりません!

「おまえたち、探知魔法を試みたところ、電子の海の中にアニメーションの情報発信基地を発見したぞ!」
「マジで⁉」
スマホをいじっていた中村君が、不意に興奮したように声を上げ、みんなも慌ててそれぞれのスマホで検索する。
「おおお、ほんとだ、ホームページができてる! しかもめっちゃいい感じ!」
「へえ、アニメ版の俺もクールじゃねえか」
「もう声優さんも決まってるんだ⁉ すごいね」
「そういえば、作者から伝言を預かってたんだ。えーと……『全員イメージぴったりの最高のキャスティングです!』だって!」
 野田君の言葉に、おおおおおお、と一同、盛り上がる。

「『脚本も演出も作画も音楽もどれも素晴らしく、情熱を込めて丁寧に制作していただいているので、乞うご期待』らしいぞ!」
 ぱあっと顔を輝かせながら野田君がメモを読み上げると、その場に歓声とともに自然と拍手が沸き起こった。

「放送は十月からか……本当に本当に楽しみだな!」
「ああ、待ちきれねえ……! 更に空良ちゃん愛を深めながら全裸待機しとくぜ」
「この竜翔院凍牙の力ならばアニメ開始時期まで一気に時間軸を飛ばすことも可能だが……指折り数えて待ちわびるこのときを味わうのもまた一興、か」
「そうだ、新たなレジェンドの始まりを記念して、俺のカウントダウンライブを開催するってのはどうだ⁉」
「いらねー。――まあせいぜい、期待していればいいさ。このオレが一枚かんでいるんだから、退屈はさせないぜ?」
 すっかり浮かれてはしゃいでいる厨病ボーイズ。
 うんうん、楽しみで仕方ないよね。早く観たい……!

「とりあえず今後も逐一、マナの動向を注視する必要があるだろう」
「イエス! ホームページはこれからも要チェックだな」
「このショートストーリーの連載も、しばらく続くみたいだ。『今月はアニメ化記念ということでメタに振り切ったネタだったけど、九月からはいつもの小説みたいな感じになる予定なので、またちょこちょこ見に来てもらえたら幸いです!』だってさ」

 アニメ「厨病激発ボーイ」、何卒よろしくお願いします!


読込中